現代の一般的な畑作土壌(施設栽培も含む)の問題点について

現代の一般的な畑作土壌(施設栽培も含む)の問題点について

農薬や化学肥料の蓄積が問題視され、土壌の劣化が年を追うごとに進行しています。野菜類の栄養素としてのミネラルは30年前に比べて半分になっているとも言われています。

近年では野菜類からは十分なミネラルを摂取できないためにミネラルやビタミンなどのサプリメントを服用する人達が急激に増えてきています。このようなミネラル・ビタミン不足の野菜が出来るようになったのにはその背景があります。
それは土壌に原因がある場合が多く、これらの土壌の問題を分析を通じて多角的に捕らえ、問題を解決する方法が少しずつ明らかになってきています。

現在の土壌の問題点を大きく3つに分類すると1物理性の問題、2化学性の問題、3生物性の問題、に集約できます。

土壌の物理性の問題

近年の農業は、生産性の向上や年間通しての出荷体制などの要請から、機械の大型化や大型施設栽培などにより、工業型農業経営をしなければ生産者は生き残れない環境になっています。
土壌は大型のトラクターに踏み固められ、耕うんすればするほど、表層から15~20cmのところに、耕盤層が形成されます。耕盤層は土壌の通気性や排水性が低下し、作物の根の伸長を妨げるだけでなく、干ばつや長雨の影響を非常に受けやすくなります。

この表はイチゴの施設栽培の土壌を硬度計で1cmきざみの圧力(土の硬さ)を表したものです。
この圃場は20cmと40cmのところに硬盤ができている事が分かります。
このように硬度計を利用する事によって、これまで感覚で硬いとか柔らかいとかいっていたものが、どの様にどれだけ硬い層があるか、一目で分かるようになります。
また、物理性の改善ポイントが明確になります。

ミネラル液を使用すると岩石抽出ミネラルとはでも述べた通り土のソフト化が進み、土壌がサラサラ・フカフカになり棒が1m以上はいるようになります。
耕盤がなくなることによるメリットは計り知れません。根が伸長し、養分をより吸収できます。水分や温度の変化に強くなるなど数えればいくらでもあります。
実際にイチゴ栽培農家でミネラル液と良質な堆肥を組み合わせて行なった結果、栽培終了後に根を掘ったら驚くべきことに240cmもの深さまで根が確認できました。

耕盤ができていたときは水の管理が大変で毎日PFメーター(土壌水分計)とのにらめっこであったのが、ミネラル使用後耕盤が抜けたあとでは、根が深くまで伸びたために、土壌水分が安定し、水をやってもPFメータはそれほど動かなくなりました。
イチゴの味も抜群で大手百貨店や料亭などにも並ぶ価値の高い農産物になっています。
別の例では粘土質土壌で雨が降ればドロドロで乾けばカチカチの土壌に堆肥とミネルA液を入れて約半年で棒が70cmほど入るようになったところも出てきています。これら2つの例とも共通しているのは堆肥などの有機物を適切に投入していることであります。有機物とミネラル液の相乗効果で驚くほどの変化が出てきています。

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化学性の問題

もうひとつの問題に土壌の化学性の問題があります。土壌の化学性問題とは塩基類やリン酸、窒素類などの過剰残留問題です。
特にこれらの問題は降雨が遮断された施設栽培土壌に多く見受けられます。
一般には作物の養分吸収量を大きく上回る多肥栽培を行なっており、さらに経験や感に頼った施肥を行なっているために土壌中に残留している養分は年々増加しています。

表1に関東地方のきゅうり栽培土壌の平均値(200点)を示します。
特に塩基類(石灰・苦土・加里)リン酸、硝酸態窒素の過剰が激しいです。
塩基類についてはその量も問題であるがバランスが非常に重要であると言われています。
石灰:苦土:加里=5:2:1(飽和度で)が理想であるが、中には石灰飽和度で100%をはるかに超えてしまっている圃場も目立ちます。

比較項目 適正値 測定値
EC(mS/cm) 0.5 0.93
pH 6 5.9
石灰飽和度% 50 82
苦土飽和度% 20 23
加里飽和度% 10 13
塩基飽和度% 80 117
P2O5 80 440
NO3-N 10 23

(P2O5とNO3-Nの単位はmg/100g)

またリン酸は土壌のリン酸吸収係数との関係もありますが適正値の5、6倍の値もあるところが増えています。
これらの過剰害は微量要素などの吸収を妨げて様々な障害を引き起こすだけでなく周囲への環境汚染にもつながるので、十分な注意が必要です。

ある生産者は最近水しか撒いていないのにまるで窒素肥料を入れたような作物の変化が見えると言っていました。その圃場の地下水の硝酸態窒素の量を測ったら何と150ppmもあり(飲料水基準10ppm以下)地域一帯の地下水汚染が問題となりました。

これらの化学成分を収量を落とさずに減らしていく方法はどのようにすればよいのでしょうか。
それは土壌分析に基づいて、過剰のものは施さず、必要最小限の肥料を施すことが大前提です。

さらに過剰害を早く軽減する方法としてミネラル液の散布があります。
これはこれまでも述べてきましたが耕盤がなくなることでの電気伝導度や硝酸態窒素の著しい減少(図1,2参照)や、簡単に減少しにくい石灰なども減少することが確かめられています。

図1:ECの経時変化
ECが1を超えていたものが耕盤が抜けた6月に急激に減少。その後0.2程度を推移しています。
Y軸凡例:EC(ms/cm)

図2:硝酸態窒素の経時変化
    アンモニア態窒素
    硝酸態窒素

ECと同様6月に急激に減少。その後非常に低い数値を推移していたが作物に窒素欠乏は見られませんでした。
Y軸凡例:mg/100g

図3,4に示すのは石灰とpHの関係です。
この圃場では1000mg/100g以上あった石灰が約1年半で40%程減少しました。
当然石灰分の入っている資材は施さなかったのはもちろん、副資材で石灰を使っているものも現在では多く(粒状にするためのコーティング剤など)、そのため肥料メーカーから資料を取り寄せて石灰分のないものを選択して施しました。

またこのグラフで面白いのは石灰がどんどん少なくなっていくのに反比例して土壌pHがあがってきています。
通常では石灰が少なくなればpHは下がるはずなのに逆の減少が起きています。
これは様々な要因が合わさって起こったことでありますが硝酸が減ったことと、水溶性の石灰が以前より多くなったためではないかと思われます。

以上のようにミネラル液の散布により土壌の物理性と化学性が改善され作物を栽培しやすい環境を整えることができることを示しました。

図3:土壌pHの経時変化
Y軸凡例:pH

図4:土壌中の交換性石灰の経時変化
Y軸凡例:CaO(mg/100g)

生物性の問題

生物性の問題微生物相

【左図】写真2,表2:土壌消毒区の微生物相

糸状菌 放線菌 一般細菌 総数
1.7x106 9.7x104 3.2x105 2.2x106
80.8% 4.5% 14.7% 100%

【右図】写真3,表3:堆肥・ミネラル区の微生物相

糸状菌 放線菌 一般細菌 総数
8.6x104 3.8x106 5.9x106 9.7x106
0.9% 38.7% 60.4% 100%

最後の問題に生物性の問題を挙げます。
生物性とは主に土壌微生物の種類や数に関することです。
作物の連作による連作で土壌は疲弊し、土壌病が蔓延し連作障害となり収量の大幅低下をもたらします。これらの土壌病害の多くは土壌微生物のうちフザリウム菌などの糸状菌が原因と特定されています。対症療法として土壌消毒を繰り返し行なうことにより、病害菌は大幅に減るが当然有効菌も大幅に減ってしまいます。

土壌消毒によって引き起こされる問題は、土壌微生物数の減少と種類の画一化です。多様性の失われた土壌は少しの環境変化により、病害菌の大増殖を引き起こし、消毒をまた繰り返すという悪循環に入ってしまいます。つまり病原菌の繁殖を阻害する菌類がいなくなることによる害です。

写真2は土壌消毒を毎年繰り返している土壌の土壌希釈平板法による寒天培地上に現れた微生物の様子です。培地上に現れた微生物を糸状菌・放線菌・一般細菌に分類し計数したものが表2です。約80%が糸状菌で放線菌はわずか5%しかいないことがわかります。

まさに画一化した微生物相といえます。(ただしこの数値は年間通して同じであるわけではなく、ある期間での値を示します)一方同じ畑で一部土壌消毒をせずにミネラルと堆肥を入れた場合が写真3と表3です。

堆肥・ミネラル区は微生物数が約5倍で菌相は糸状菌が少なく放線菌や一般細菌の割合がかなり増えていることがわかります。以上のことから土壌消毒に頼った農法は、持続的可能な農業とはいえず、一時しのぎ程度のことです。
しかし堆肥やミネラルを使用したからといって一変に土壌がよくなるわけでもありません。

長い時間をかけて土壌を傷めてきたのであるから、回復させるにもそれなりの時間が必要です。つまり病害が起こりにくい作物と輪作体系を作ることが一番の対処法になると思われます。

また、イチゴとメロンの輪作をしている土壌の微生物相の変化では次のことが分かります。

メロン栽培の時(5月から9月)は微生物総数が100万の桁で推移します。
一方イチゴ栽培(9月から4月)では1億の桁で推移しており、2桁の差がでます。
これはメロン栽培の場合は水を極端に絞る時期があるために、土壌水分が大幅に低下しその結果、微生物数の減少を引き起こしていると考えられます。

つまりメロン栽培のみの連作では、いくら土作りと称して良い堆肥や資材を入れても、水分量が足りずに微生物は繁殖できず、結果的に土壌微生物は減ってしまいます。

輪作をしている土壌の微生物相の変化でもうひとつ注目するところは、糸状菌の数が10の5乗(10万)で変わらないことです。これはイチゴを栽培しているときはほとんど問題になりませんが、メロン栽培の場合には糸状菌の割合がかなり上昇することを意味します。
よって病原菌の8割は糸状菌であるということから糸状菌の割合が高まることは、それだけリスクが高まっていることをあらわしています。

これらのことから土壌微生物のことを考えながら栽培するには、水を絞った栽培をする作物の後に、水を多くやる作物とセットにして栽培することが重要であることがわかります。

イチゴとメロンの輪作土壌の微生物相の変化土壌微生物の経時変化
微生物相

【左図】写真4,表4:土壌消毒区の土壌浸出液寒天培地Aに現れた微生物相

糸状菌 放線菌 一般細菌 総数
4.1x104 4.6x105 3.5x106 4.0x106
1.0% 11.4% 87.5% 100%

【右図】写真5,表5:堆肥ミネラル区の土壌浸出液寒天培地Bに現れた微生物相

糸状菌 放線菌 一般細菌 総数
3.2x104 3.5x106 1.3x107 1.7x107
0.2% 21.1% 78.8% 100%

次に興味深い実験をご紹介します。
土壌希釈平板法での微生物相の実験ですが、1つは土壌消毒を毎年繰り返している土壌から養分を抽出した寒天培地A(土壌浸出液寒天培地)を用意し、一方は堆肥やミネラルを使用して10年近くになる土壌から抽出した培地Bを用意します。
それぞれの培地に土壌消毒を繰り返している土壌の希釈液を塗布した結果が写真4,5と表4,5です。同じ土壌の希釈液を塗布したにも関わらず、微生物数は大きく異なっていることがわかります。

これらの事実から言えることは、Aの培地ではコロニーを作れなかった菌類がBではコロニーを作り繁殖しているわけで、微生物がいないわけではなく、活動できる環境ではないといことです。

すなわち土壌微生物が繁殖しやすい環境を作ってあげることが重要で、良い菌だからといって外部から導入する必要などほとんどないといってよいでしょう。

これまで当社で行っている分析(土壌硬度計・化学分析・土壌微生物び菌相)から様々な問題点を指摘できるようになってきました。
現在の圃場で起きている様々な問題は何が原因で起きているのか、その理由がわかれば対処の方法はおのずと見えてきます。

しかし現状では土壌微生物について言えば同定できているのはわずか3%くらいの微生物しかわかっていないといわれています。このことからも生物性の問題は如何に難しいかわかっていただけると思います。
たった1gの土壌に何十億もの微生物がおり、作物や土壌と相互作用しているわけです。
これらの微生物と如何に共生して、多様な微生物相を維持していくかが非常に重要なことと思われます。

今後の農業のあり方として、ある一方からの見方だけでなく、様々な方向から作物や土壌を眺め、状況を判断して適切に問題に対処していくことが求められています。私たちはそのような生産者に少しでもお役に立てるよう努力していきたいと思います。